ろには当家へ到着いたしますので、さッそく突ッ走って参ったのでございます」
「それで、どんな御用件だったえ」
 加助は嘆息して、
「実は道々旦那が非業の最後をとげられたという話を承りまして、旦那の御不運、又、私にとりまして一生の不運、まことにとりかえしのつかないことになったものだと嘆息いたすばかりでございます。かような折に、かようなことを申上げるのは、人様をおとし入れるようではばかりがありますが、旦那の御最期を思えば、胸にたたんでおくわけにも参りません。旦那の御用件と申しますのは、旦那は私の手をとられて、加助や、お前には気の毒な思いをかけたがカンニンしておくれ。メガネちがいであった。ついては、もう一度、当家へ戻って店のタバネをしてくれるように。悪い噂をきくものだから、この四五日とじこもって帳面をしらべてみると、お前が出てからというもの、仕入れない品物を仕入れたように書いてあったり、色々と不正があるのを見やぶることができた。これは芳男と修作がグルになってしていることだ。すでに修作は昨日よんで、いろいろ問いつめてみたが、奴も証拠があるから、嘘は云えない。一度は許そうと思ったが、あの若さであれ
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