けだね」
「いいえ、当家の人とは限りません。外から忍んでくることもできますし、人を使って、させることもできます」
「しかし、お前は土蔵から出てくると、台所へでかけて、一升徳利から冷酒をついで、六七合も呷ったそうではないか。そして、土蔵の二階の旦那のところへ押しかけて、十分か二十分ぐらいも、ごてついていたそうではないか」
「それは私はお酒のみですから、寝酒に冷酒をひッかけるようなことも致します。別に旦那に腹の立つことがある筈はございませんが、酔ったまぎれに旦那の居間へ遊びにでかけただけのことでございます。けれども旦那は、もうカギをかけて、お寝みでしたよ。私も酔ってるものですから、戸をたたいたりして、旦那をよんでいますと、芳男さんが来て、寝んでいらッしゃるのに、そんな乱暴をしてはいけないと云って、とめて下さいましたよ。それで中へはいらずに、お部屋へ戻って、ねてしまったんです」
あゝ云えばこう云うという口では千軍万馬の強者《つわもの》と見てとったから、お槙に向って真ッ正面から何をきいたところで埒はあかない。遁れられない確証があがっても、なんとか口上をのべたてて、決して恐れ入りました、とは云
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