すから、血のつづいた芳男さんに嫁をもたせて、当家を相続させようという結構なお話でした」
「それは結構な話だったね、それから、どんな話があったかえ」
「いえ、それだけでございます」
「それにしては、奇妙なことがあるものだ。この三行り半は藤兵衛がお前にあてたものに相違ないが、日附もチャンと昨日のことになっているよ」
 お槙は顔色を変えて、
「そんなものを、いったい、どこから探しだしたのですか」
「お前の部屋のクズ入れの中からさ」
 お槙は涙を指でおさえて、泣いた。
「私はあわれな女でございます。ずいぶん旦那にはつくしたつもりですし、旦那も私を信じて可愛がって下さいました。ですが、花柳地で育った女というものは、とかく堅気のウチでは毛ぎらいされるものと見えます。あらぬ噂をたてて人をおとしいれようとなさる方もあれば、どなたかは存じませんが、こんなひどい物を私の部屋へすてておいて、さもさも私が旦那から離縁された宿なし女のように計って見せる人もあります。こんなにされては立つ瀬がありませんが、いったい、誰がこんなヒドイことをするんでしょうねえ」
「当家にそんなことのできそうな大人は、芳男と修作の二人だ
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