ッぽく、ニッコリと新十郎に会釈した。
「ヤ、お内儀か。御苦労さん。今回は大変なことで、御心中お察しします。昨夜、加助がきて、旦那と話して帰ったあとで、お前と芳男が土蔵へ呼ばれたそうだね」
「オヤ。加助が昨夜きたのですか。それじゃア、加助が旦那を殺したに相違ありません」
お槙はギョッとおどろいて、叫んだ。
「なぜ加助が旦那を殺したとお考えだえ」
「それは加助にきまっております。加助のほかに旦那を恨んでいる者はいないからですよ。あれは陰険で悪がしこい男狐でございます」
「それではあとで加助をとりしらべることにしよう。お前と芳男が旦那によばれて土蔵へ行ったのはいつごろだったね」
「十時前ごろでしょう。よく覚えてはいませんが、たいがい九時半か十時ごろのつもりです。ちょうどよい時刻だから寄席へ行って円朝でもきいてこようかと思っている矢さきでしたから」
「毎日、寄席へ行くのかえ」
「いいえ、昨晩はじめて思いついたことです。私は寄席はあんまり好きじゃありません」
「旦那からどんな話がありましたね」
「それは、芳男さんの相続の話でございます。一人娘のアヤさんが胸の病で、聟の話もさしひかえている有様で
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