かぶせておいた。酔い痴れた加助がフトンの中へ這いこんでお槙を抱いて寝ようとしたから、お槙が怒って、喚きたてた。酒席の男女、店の者全部そろってドッと駈けつけたから、たまらない。事を秘密にすますわけにいかないから、この番頭では店の取締りができないと加助は即日クビをチョンぎられて出されてしまったということさ。ここに千吉、文三という酒をのんでいなかった子供たちの証言がある。酔い痴れた加助が畳の上へゴロンとねようとすると、芳男と修作が加助にすすめて、ここで寝ちゃア風をひく、あの小部屋に正平が酔いつぶれてフトンをかぶって寝ているから、番頭さんもいっしょにフトンをひッかぶって寝《やす》みなさいと、お槙のねているのを正平だと云ってすすめたという話だねえ。なに正平は自分の小僧部屋へあがって小間物屋をひろげて寝ていたのさ。お槙が酔いつぶれて、自分の部屋でないところでねていたてえのも、かねて打合せた仕業かも知れないなア」
 大そう重大なことである。そうなると、藤兵衛が非業の最期をとげる直前に加助をよびよせていることが、非常に重大な意味をもつ。藤兵衛が加助を追いだしたことを後悔して、彼をよびよせて何事か密談し
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