ねえ。皆々よろしくやっていますよ。芳男はお槙のほかによし町の小仙という妓《こ》の旦那をつとめているね。小唄の師匠というのに入れあげてもいるそうだ。修作もよし町のヒナ菊という妓の旦那を相つとめているね。ほかに、女義太夫の若い妓をかこっているそうだ。さらに驚くべきことには、十八の金次が豆奴という半玉とできているわ、十七の正平が染丸という姐さんに可愛がられているわ、出るわ、出るわ、ほじくればキリがないやね。芳男と修作は前の番頭の加助が煙たいから、ワナにかけて、追いだしたという説があるね」
大そうネタを仕込んでくるから、虎之介はむくれて、
「いい加減な説を真にうけちゃア、立派な推理はできないぜ」
「そこが剣術使いのあさましさ。私はね、これを千吉、文三、、彦太郎という当家の丁稚からききだしてきたのだよ。加助がお槙にフシダラなことをしかけて当家を追放されたのは五月五日、節句の日だね。この晩は男の祝日だから酒がでる。一同ヘベのレケに酔っぱらッたが、男連と一座して飲んでいたお槙がまず酔いつぶれ、自分の部屋まで戻らずに、かたえの小部屋で畳の上にねこんでしまったんだね。それへ誰かが、ありあわせのフトンを
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