たが、あとは気をつけていませんでした」
「そのほかに、変ったことはなかったかネ」
「変ったことと云えば、この四五日、旦那は土蔵からお出になりません。いつもは離れでオカミサンと食事をなさるのですが、この四五日は食事を土蔵へとりよせて一人で召しあがっていました。オトトイのことですが、私が夕御飯を土蔵へ持ってあがりますと、番頭さんがよびつけられて叱られていました。きいたのはホンの一言二言ですが、お前のような番頭では、この店がつぶれてしまうぞと、きついお言葉でしたよ」
最初におしのを訊問したのは意外の成功であった。川木屋の内情について、ほぼリンカクをつかむことができたのである。
番頭の修作が若すぎると思ったのも道理、加助という十年来の番頭が、クビになったばかりなのである。ここに曰くがありそうだということは、先ず察せられることであった。
そこへ鹿蔵巡査がやってきて、
「刑事が見つけたのだそうですが、お槙の部屋のクズ入れから、こんなものが出てきたそうです」
四ツに切りさいた半紙であった。合せて読んでみると、三行《みくだ》り半《はん》である。日附は十月五日とある。昨日である。お槙が酔っ払って
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