ことだから、かかっていても、細目にあくだろう。そこからのぞいたら、カケガネは見えそうなものだ」
「そんなことをしなくッとも、戸があかなければカケガネがかかっているにきまっています」
「お前が主人を最後に見たのはいつごろのことだね」
「ゆうべは旦那から指図がありまして、今夜加助がくるだろうから、来たら土蔵へ案内しろと云いつけられていましたから、加助さんの顔が見えると案内しました」
「加助とは、どんな人だ」
「今年の春まで、ここの番頭をつとめた人でございます。五月ごろヒマをもらッて、そのときは、旦那に叱られて、追んだされた筈でございますよ」
「なんで叱られたのだね」
「オカミサンに懸想《けそう》したとか、酔ってイタズラしたとか、そんな噂でございます。それは無実の罪でございますよ。これだけの大家の番頭を十何年もつとめあげて、追んだされてから大そう貧乏して、細々と行商をやってるそうですが、そんな実直な白鼠が、この日本橋にほかに誰がいるものですか。みんなよろしくやって、お金をためこみ、女を貯えているものでございます。あの番頭さんだけは、ちッとは女遊びぐらいしたかも知れませんが、ほかの白鼠なみのこ
前へ 次へ
全51ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング