れ易いからでしょう。多数の方々はお嬢さまが卒倒なさッたのをある人の指金《さしがね》で定められた時刻のようにお考えのようでしたが、この時刻はお嬢さまが勝手に選んだもので偶然にすぎません。ある人の指金で定められた時刻とは、加納さんが幽霊から使いをもらって夕月へひきだされ、どうしても、会におくれて帰邸せざるを得なかったというカラクリにあるのです。これは加納さんの性癖をよく知りつくせる者のみのなしうることです。つまり、加納さんは重大な宴会前には食事して出席すること、いそいで食事するときには、茶漬に梅干だけで二三分でかッこむことを知りぬいた者のたくんだことです。なぜなら、犯人は加納さんに大急ぎで梅干をたべさせる必要がありました。その梅干に毒が仕込んであったからです」
 虎之介は大不満。鼻をならして、
「そんなことがありますかい。お嬢さんが卒倒して、そッちへ人々の注意がむいた隙をねらって小柄をぶちこんだのさ。その隙がなくッちゃ小柄をぶちこめるものですか」
 新十郎はニッコリ笑って、
「小柄は手裏剣で投じたものではないのです。犯人はやがて毒がまわって、加納さんがふらつき倒れることを知っていました。彼
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