き起して、
「誰もお嬢さまに命じた者はなかったのですよ。つまり、あの時刻にお嬢さまが卒倒なさったのは偶然なんです。お嬢さまが卒倒なさらなくとも、加納さんはあの時刻に、あのような最期をとげなさる運命にありました。これが、この事件の眼目なんです。私はそれを昨夜から確信いたしておりました。お嬢さま、ありがとうございました。おかげで犯人を捕えることができましょう」
お梨江はひとかたならぬ信頼をこめてジッと新十郎を見つめたが、
「いつ揃えなさるの?」
「三十分ぐらいのうちに捕えることができましょう。お嬢さまも犯人の名を御存知でしょうね」
お梨江はキッパリとうなずいた。
二人の若い美男美女がいかにも親しげに心の寄り添う様を見て、虎之介は不服満々、
「とんでもない。結城さん。ああ、色道ほど怖しいものはないなア。あなたほどのお方もコロリと参ると、心眼も曇るどころか、まるでそれじゃア、真犯人の奸計に乗ぜられるばかりですぞ」
新十郎は虎之介をなだめて、
「いいえ、美しいお嬢さまをお見かけしてから、私の心眼はずんと冴えを増したのですよ」
ニッコリしてこう云うと、思わず新十郎はポッとあからんでしまっ
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