四ツもあった。
「それでは、お嬢様にお目通りさせていただきましょう」
 彼らはお梨江の居室へみちびかれた。新十郎は鄭重《ていちょう》に挨拶して、
「昨夜の不快を思いだしていただいては恐縮ですが、お嬢さまがおくれて会場へお出になったについては、なにか理由がございますか」
「理由と申上げるほどのものはございませんわ。ただ、なんとなく、気がすすまなかっただけ。できるだけ、おそく、できれば、出席したくなかったのです」
「すると、あの時刻に出席すると打ち合せた人も、むかえに来た人もなかったのですね」
「ございません。一存で、見はからッて出て行きましたの。迎えになんかきたって、うッちゃッとくわ」
 たまりかねて、遮ったのは、虎之介である。
「その嘘は通りませんぞ。あの時刻に、あなたをあそこへ出るようにした人物がいた筈でござろう。よッくこの目をごらんなさい。この拙者の目を」
 新十郎がブッとふきだして、虎之介をひッこめようとする矢先、虎之介はけたたましくワッと叫んでひッくりかえっていた。お梨江がソッと手をうしろへ伸して、机上の孔雀の羽をにぎりしめて彼の目の中へ突っこんだからである。新十郎は虎之介をだ
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