。他にも、その一事によって秘中の史実が知れるという決定的な場合には実の名詞を使わず今様の名詞を使いますから御承知下さい)は考えた。大製鉄所を国家の事業としてやると、国際的にうるさい。半官半民でも、おもしろくない。民間人にやらせる一手であるが、幸い志を同うする者に大政商加納五兵衛という者がいた。そこでこの男の個人事業としてやらせることになった。
とはいえ、これは表向きで、五百万ポンドの借金にしても、実際は政府がタンポもだし、借金の後始末万端責任をもつというハッキリした国家事業だ。X国はZ国とは勢力対立し、目の敵の間柄であるから、日本が工業をおこしてZ国の東洋市場をいくらかでも荒すというなら不賛成ではない。そこで日本とX国が密々に交渉をはじめた。
けれども、五百万ポンドといえば、まことに莫大な金額であるし、目の敵のZ国とはいえ、国際間のことは微妙で、いくらの得にもならないことで他国の怒りをまねくようなバカはしたくない。X国は慎重そのもので、五百万ポンド、はい、貸しましょう、とはなかなか云ってくれない。
こうして半年ちかくも埒があかないうちに、Z国がこの秘密交渉を見破ってしまった。裏の
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