車もいまだに海外から輸入している。文明の利器というものは、国内では全く造ることができない。文明国の仲間入りをするには工業を興さなければならないし、それには先ず大製鉄所が必要だ。ところが、資本がない。日本の大ブルジョアは貿易とか海運とか、手ッとり早くサヤのとれる事業には浮き身をやつすが、大資本を投下して設備をほどこし、技術の精華をあつめた上で長年月の研究を重ねなければならないような大工業には見向きもしないのである。
時の政府はこれを憂えて、文明国の仲間入りの手始めとして、まず大製鉄所をつくろうと決意した。資本がないから、X国から五百万ポンド借りたいと考えている。五百万ポンドといえば五千万ドル。今の相場なら三千億円ぐらいに当るという大金なのである。
ところが日本が大工業をおこすのを喜ばない国がある。Z国などがその代表だ。後日自分の市場を荒される怖れがあるからである。
そこで総理大臣(十八年十二月までは太政大臣と云った。その前後がちょうどこの捕物の時期に当っているので、官名を史実通りにハッキリかくと秘中の実が知れてしまう。そこで太政大臣をひッくるめて、前後一様に総理大臣とよぶことにする
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