裏まで見ぬいた。
 そこでZ国が裏をかいて、仕返しに何をしたかというと、彼は日本に忠告したり、X国に抗議するようなことはしない。日本はX国から紙・石油・綿糸(これが先の総理大臣の呼称と同じことで、実を書くと秘密が知れるから、品目の名はデタラメ)を買って、これがX国の莫大なモウケをなしている。そこでZはXへの仕返しに、他国から日本に安価な原料を世話した上、製紙、製油、製綿糸の大工業を起させようと企んだ。
 Z国がこの秘密の相談を持ちかけたのは、総理大臣上泉善鬼の政敵で、次期政権の必然的候補者といわれている対馬典六であった。典六は善鬼の藩と対立する雄藩の代表的人物でもあった。そこでZ国の大使フランケン(この名もデタラメ。発音によって国名が知れるから、いい加減なのを選んだ)はひそかに典六をよんで、お前に五百万ポンド貸してやるから、大々的に製紙、製油、製綿糸事業をやれ、原料も製品の海外市場も世話してやる。けれども、政治家のお前がやるのは国際的に不埒な点があるから、表向きは実業家神田正彦の個人事業としてやらせろ。タンポはこれこれだが、これはお前が総理大臣になったとき、公式に借款契約したような書式
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