をとりだして悪血をとる。散々頭の悪血をしぼると、次には小指をチョイときって、懐紙で悪血をとっている。悪血をしぼりながら、おもむろに心眼を用いているらしい。海舟はナイフと砥石をかたづけて、血をふきふき、
「色と見せて別口のあるところが非凡なのさ。虎には、チヨット、わかるまいよ。その日になって、アツ子はにわかにチャメロスとお梨江をとりもつようなことをしたというが、これが計略だアな。アツ子とフランケンはできているぜ。オレもフランケンには三四度会って話をしたことがあるが、好男子で、大そう如才がなくて、鼻筋も唇も目も、顔全体がみんな薄々とした優男《やさおとこ》だな。この顔相はロベスピエールに似ているぜ。顔相の同じいものは、魂も同じいのさ。日本では斎藤道三が悪がしこくッてキモのできた悪党だが、大そう好男子であったそうな。これも目鼻の薄々した優男であったろうよ。人間の仕でかした事蹟を見れば、顔も大方わかるものだ。アツ子とフランケンは組んで踊っていたらしいが、さすがに思いきったことをやる。計画は見ぬかれまいと、自信があってのことだ。しかし、手を下したのは、フランケンでもアツ子でもない。虚無僧姿の神田正
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