西洋手裏剣の名取りだろうと睨みましたね」
★
海舟の前にかしこまった虎之介は、後先をとりちがえないように念を入れて、語り終ってホッとした。
さて、それからが問題で、花廼屋に鼻先であしらわれたが、無念なことには奴めの雑言たがわず、彼の心眼は狂ったところを見ていたようだ。狂うはずはないのだがなア。まことに面目ない。そこでいつもの例であるが、海舟のところへ、心眼の狂いを直してもらいにきたのである。虎之介は腑に落ちない顔。
「五兵衛に近寄った者は総理のほかにはおりません。もっとも、アツ子とフランケンのところへ自分から出向いてはおりますが、異状なく立ち戻っております。総理が去って二三分後に、ふらつき、よろめいて、倒れるところを、田所が駈け寄って抱きとめましたが、ふらつく前に近づいた者はおりません。総理が去って二三分、そのときお梨江が卒倒して満場の注目がそッちへ向いております隙に、手裏剣をうった者、田所のほかに犯人はございません。手裏剣のとび来った方角に最も近く居た者は田所で、すこし離れてフランケンがおりますが、彼の位置は田所にさえぎられて手裏剣をうつことができません。
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