ハッハッハッ」
虎之介は笑い茸《だけ》を食ったようにダラシなく相好をくずして、
「お先きに失礼。ハッハッハッハ」
喜びいさんで、どこかへ走っていった。
新十郎は鹿蔵に、
「烏森の夕月へいって、加納さんが誰に会うはずであったか、きゝただして下さい。それから、これは、ちょッと難題ですが、加納夫人の素行を総ざらいに洗っていただきたいのです」
これをきくと花廼屋はよろこんで、
「それ、それ。大先生の心眼がズバリそこを指すだろうと見ておりました。虎公は田所と睨んでいるのさ。ヤブ睨みだね。あの人の智慧は、失礼だが、浅い。私はね、チャンと見ていました。あすこをね」
新十郎はふきだしたいのをこらえて、
「あすこッて、どこですか」
「ねえ。ほら、あすこんとこさ。先生の心眼がズバリさしたところさね」
「私の指したところッて、どこでしょうか」
「ヤだなア、この人は。あなた、さしたでしょう。加納夫人の素行のとこさ。ね。フランケンですよ。犯人はこれだ。私もね。手裏剣にしちゃア傷が深い、おかしいなア、と思ったんだが、西洋の手裏剣たア知らなかったね。こいつア、術がちがいます。フランケンは大そう好男子だが、
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