一流の人物は心構えがちがっているね」
新十郎が感服してうなずくと、お絹は自分がほめられたようにポッとあからんでしまった。美男子というものは得なものだ。
「今晩はどんなものを召上ったね?」
「蒲焼やおサシミや鮎や洋食の御料理や、いろいろと用意してございましたが、急いでお茶漬を召上るときは、梅干を六ツ七ツ召上るだけでございます。梅干がお好きで、御前様の梅干は小田原の農家の古漬を特にギンミして取寄せております」
五兵衛の食膳へのせる梅干の壺は明《みん》の高価な焼物だということであった。大きなツブの揃った何十年も経たかと思われる梅干がまだ六ツ残っていた。
調べを終って、門をでると、虎之介は喜びふくれる胸の思いに居たたまらぬらしく、花廼屋をこづいて、新十郎の後姿を目顔でさしながら、
「アッハッハ。ムダな方角を見ているんだねえ。アッハッハッハ。見ちゃアいられねえなア。オレは、ちょッと、失敬しますよ。ハッハッハッハ」
「みッともないねえ。なんてダラシのない笑い顔をする人だろう。馬がアゴを外したような顔をする人だ。お前さんの方角が見当ちがいにきまってらア。ムダ骨を折りたがる人だ」
「アッハッハッ
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