か」
「倒れる瞬間には見ておりません。倒れた後に、虚無僧姿の田所さんに抱かれて後の姿を見ましたが」
満太郎は自分よりもちょッと年配にすぎない名探偵に信頼をよせているようだった。彼の目はジッと新十郎にそゝがれて、今にも何か言いたげであったが、フッと目をそらしてしまった。
来会者は訊問されることもなく、すぐ解散を許された。
残ったのは、総監と、特に居残りを命じられた楽士であった。
「あなた方は一段高い席におられたのですが、犯行を目撃された方はおりませんか」
答える者がなかった。新十郎はうなずいて、
「犯人は煙のように人を殺しているようですね。しかし、被害者の倒れる瞬間を目撃された方はいるでしょうね」
五兵衛がヨロけて泳ぎだしてから、やがて横っとびに虚無僧が抱きかゝえるまで見ていた者が三名いた。
「被害者が泳ぐ様子をごらんになったとき、何をしていると思いましたか」
「左様。泳ぐというよりは、前の方へうつむきがちに、しゃがみこむように見えましたな」
と一人が答えた。他の一人もそれに和して、
「そう。そう。私も、そう見たね。おや、あの雲助はしゃがむんだナ、というようにね。それだけのこ
前へ
次へ
全49ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング