してな。ちょッと用談がありました。すると五兵衛どんは令夫人を目でさがしましてな、折よく近いところでフランケン大使と踊っておるのを認めまして、そこへ行って一二応答があったようです。五兵衛どんは戻ってきて総理に復命しました。そういえば、そのとき、五兵衛どんはなんとなく顔色すぐれぬ様子でしたなア」
 新十郎はうなずいて、
「では、現場へ御案内ねがいましょう」
 星玄は案内に立つ。鹿蔵も一しょに四人が内へ進もうとすると、星玄はおどろき呆れて虎之介をジロジロ見まわしながら、
「あんたはイカンなア。ヘコ帯に素足。今夕は各国の大公使が列席しておりますぞ。あんたは、国威を失墜しよるなア」
 自分がいわれつけていることを言っている。虎之介はぶッとふきだして、
「総監はハダカにフンドシですが、国威を失墜しましたなア」
「ヤ。しまった」
 新十郎は中に立ってとりなしてやった。
「探偵はあらゆるものに変装しますから、そう見ておいたらよろしいでしょう」
「ヤ。結構々々」
 星玄は満足して四人を案内する。舞踏場内では、人々は壁際へあつまり、真ん中はひろびろとして、その一角の床上に、雲助姿の加納五兵衛がうっぷして死
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