ぞと、頼まれて案内にきたようなことをいって、ズンズンついて行くのである。
三人がでかけるころに気がつくのが虎之介で、あわてて帯をしめなおしながら、
「オイ。待て! 待たんか! 卑怯もの。ウヌ」
ホウ歯の書生下駄をつッかけて追っかけてくる。新十郎は花の巴里《パリ》でつくらせた洋服に細身のステッキ。花廼屋も当節の通家であるから、リュウとした洋服にハットをかぶり、ステッキを手に、いつも水府の巻タバコをくわえている。
鹿蔵の注進によって勢揃いした三人は矢来町の加納邸へとやってきた。
星玄は門前まで出迎えて、新十郎に堅く握手して、
「日本ひろしといえども、オハンあるのみ。たのみますタイ」
心痛のあまり、国の言葉で、挨拶する。彼の目には、事のあまりの重大さが、焼きついていて、居たたまれぬほど胸がせまってくるのであった。
「何事が起りましたか」
星玄は事件を説明して、
「かようなわけで、まことに心外ながら五兵衛どんはオイドンの目の前で死んでしもうたのです」
新十郎はやさしい目で彼をいたわって、
「ほかの人々はお梨江嬢の倒れた方へ駈け去って、残っていたのは、あなた方雲助組だけですね」
「
前へ
次へ
全49ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング