戸大阪生れの人間がやるものだが、花廼屋は薩摩ッポウで、鳥羽伏見の戦争ではワラジをはいて、大刀をふり廻して、ソレ、駈けこめ、駈けこめ、と、上野寛永寺まで駈けこんできた鉄砲組の小隊長であった。
どういう因果か、この男は小説が好きだ。おまけに、都会の風が身にしみてゾッコン好きであるから、御一新になると同僚はみんな官途について、肩で風をきる中で、この男は志を立て、さる戯作者の門に弟子入りして、大いに道を習い覚えて、小説をものしたところ、外道の世の中、見当外れの通ぶりが意外の功を奏して、バカにされされ、もてはやされてしまったのである。田舎通人、神仏混合、花廼屋因果といえば、人力車夫や女中などには粋人中の粋人とありがたがられて、身にあまる人気を博するに至った。
この男がまた虎之介に輪をかけて凝り屋のところへ、特に探偵のことには凝りに凝っている。古田巡査の靴の音をチャンと覚えていて、この足音が新十郎の門をくぐると、すばやく身支度をととのえて、新十郎のでてくるのを門前に待ちかまえていて、
「さ。では、参りましょう」
とか、懐中時計をチョッとにらんで、
「ウム。こりゃア、急がにゃなるまいて」
な
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