える。ヒネクレている。無口で、人のヒミツをジッとうかゞっているような、陰険で、なんとなく不潔な感じが漂っている。ママ母と折合いの悪いのは当然で、むしろママ母の方が泣かされたろうと思われるぐらいである。
世間知らずの妹は、そんな風には考えない。ママ母にいじめられて、ヒネクレ、陰険になり、無口になったと解釈する。無愛想はむしろ美徳だと考える。女中がチャラ/\御用聞きなどゝ談笑するのを好まないのである。
私にくってかゝって、
「兄さんは不幸な境遇が人の性格をゆがめることも知らないで、小説を書こうなんて、まちがいよ。あたゝかい心がないのです。ろくな文学は書けませんよ」
妹は着物を買ってやったり、東京見物につれて歩いたり、お裁縫を教えたり、たいへんなゴヒイキである。
夜、膝つき合して裁縫している時などに、身の上をきいたりすると、シャクレ顔がデングリ返ったような深刻な思いつめた表情となって、ママ母にいじめられた数々を身もだえるように語りだす。ヒソヒソと秘密を打ちあけるようである。告白のせつなさだ。シャクレた底で目玉がピカピカひかる。因果物の娘の演技である、復讐の青大将が這いまわるという連鎖
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