舎娘の意気じゃない。
 トン子さんは不幸な娘であった。田舎の小学校の校長先生の娘であるが、母親が死んでママ母がきた。ママ母にたくさん子供ができて、ママ母と折合いが悪い。家出をしたこともある。ウチにいたくないので、女工になったこともある。然し、女工はお行儀が悪くなるから、と校長先生が心配して、うちの女中に、校長先生から頼みこんできたのだそうだ。
 だから、いつもくるような田舎娘の女中と違って、いくらか都会風である。女工らしいところがある。目つきが鋭く、陰鬱であった。
 シャクレた顔であった。小柄で、やせて、敏活そうであったが、無口である。然し、キテンはきく。仕事の要領がよくて、ジンソクである。たゞ、誰にも無愛想であったが、水商売のウチとちがって、それで困るということもない。
 そのころ、私と一しょに妹がいた。妹は平凡な家庭婦人の生れつきで、どういうわけだか、トン子さんが甚しく気に召したようである。
 小学校の校長先生の娘で、ママ母に苦しんだ不幸な身の上ということなどが、先ず第一に極めて人情と好意にみちた受けいれ態勢をとゝのえさせていたものだろう。
 私の目には、誰よりもイヤらしい女中に見
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