日の丸をふってでてくる田舎娘にモシモシなどゝ言い寄るのはキマリが悪いから、私も迷惑していたが、先方は私以上に迷惑であったらしく、日の丸をクルクル棒にまいて、帯の間へ押しこんで、たった一寸ばかりフトコロから顔をだしているばかりであるから、危く見逃すところであった。
通りすぎるのを、追っかけて、フトコロの品物を見定めて、モシモシ、トン子さんですか、ときく、シャクレた顔をツンとソッポをむけて、そうだという意味を表現した。
私は前後四五人の女中を、こうして駅頭へ迎えたけれども、私がそれと目印を見破ってモシモシと話しかけると、ハイ、そうです、などゝ返事をする娘のいたタメシがない。うなずいたり、うなだれたり、するだけだ。それに、みんな言い合したように、待つ人のいることなど念頭にないように、ワキメもふらず、スタスタ歩いて改札を出て行くのである。トン子さんもワキメもふらずスタスタ通りすぎて行ったが、ツンとソッポをむいて、そうだという意味を表現したのは、この御一方だけであった。
日の丸をキリキリまいて、フトコロへ押しこんで、一寸だけのぞかせたタシナミと云い、ソッポをむいた気合いと云い、たゞの田
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