うタメシのない頭だから、かんべんしてくれ、と云っても、嘘だと思ってとりあわない。三人で私の頭をオモチャにして、そして口うるさいガサツ娘が、三人ながら、ハゲのハの字も言わなかった。ハゲているのが当然というお見立てによるのであろうが、これは、深刻なものである。
名古屋医大へハゲ退治にでかけるという泰三画伯は、つまり、人生がまだ花であるというシルシであろう。オヤ、ハゲましたね、などゝ言われるうちは花なのである。毛が生えなくとも、悲しむべからず。
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むかし、私の家にいた女中の話である。名はなんと云ったか、忘れたが、トン子さんとよんでおこう。二十一である。
何日何時、上野駅へつくというから、私が出迎えに行った。郷里の方から送ってよこすのだから、先方もこっちも身元がハッキリしているから、親などはついてこない。然し、顔を知らないから、目印を持たせてよこす。たいがい季節の花などを胸につけたりしてくるのを、私が改札にガンバッていて、見破って、つれてくるのである。
トン子さんの時は、たぶん冬で花がなかったのかも知れない。日の丸の旗を目印に持たせてよこすという通知であった。
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