、ぬけるぜ。あんときは、いゝ医者へ行かなくっちゃアいけないよ。治療が長びいてネ。入れ歯をすると、餅にくッついて、いけないネエ。年だなア。君も、そろそろ、はじまるころだ」
私といくつも違わない年下の方が、こっちの方は、かたくなに私の方を同類から締めだす。同人雑誌の会などへ出ると、
「どうぞ。お年寄、こちら。床の間へ」
「おい、ふざけるな。君と、いくつ、違うんだ」
「いえ、わかってます。そんなに気になるもんですか。ふうむ」
と、急に敬語などを使って、区別を立てゝみせる。卑怯である。三十九のくせに、三十代。バカ云え。なにも十で区切らなければならないという規則はない。二十五から三十五、四十五。
「アハハ。そんなのないよ」
なにが、ないことがあるものか。なんでも、ある。彼等はバカである。論理性がないのである。二十五で区切る。二十五から五十まで。みろ、みんな、一しょじゃないか。
然し、先日、街で三人の知りあいのパンパン嬢にあい、ゴハンたべさして、と云うので、食堂へ行く。パンパン嬢、お礼の寸志か、私の髪をくしけずってくれる。半年以上も床屋へ行かず、自分でハサミできってるという頭で、クシなど使
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