頭をだしてみせる。アラ、ホント、ずいぶんハゲたのね。ウム、ハゲちゃった、アハハハハ、などゝバカみたい。これを逆に女の方からやられると、ベソをかきそうな顔になる始末であるから、仕方がない。無事関門を通過して、ホッとしながら酒を飲みだす段どりとなる。
もう、ちかごろはハゲぐらいの問題じゃなく、もう、お年ねえ、などゝ決定的なことを言われるようになったから、ハゲもなんでもなくなってしまった。
はじめてハゲを見つけられた時は、合せ鏡などをして、自分のハゲをしらべてみたことも一度はあったが、まったく醜悪なものであるから、二度と再び見参に及んだことはなく、今ではどれぐらいのハゲになったか、もっぱら人まかせにしておくのである。
泰三画伯は近々御結婚あそばす筈で、新婚記念に名古屋医大へハゲ退治に出向く由、三十二歳ともあれば、ムリもない。
皮肉なもので、若い時には、ハゲましたのねえ、と頻りにやられたが、今ぐらいになると、もう誰もハゲのことなど言わない。私よりもズッとお年寄の方々が私を同類扱いするようになって、尾崎士郎先生などが、
「君、まだ、歯はぬけないかい?」
「歯がぬける?」
「ウン、そろそろ
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