魔の退屈
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)仰有《おっしゃ》る
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五百|米《メートル》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ガチャ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
戦争中、私ぐらゐだらしのない男はめつたになかつたと思ふ。今度はくるか、今度は、と赤い紙キレを覚悟してゐたが、たうとうそれも来ず、徴用令も出頭命令といふのはきたけれども、二三たづねられただけで、外の人達に比べると驚くほどあつさりと、おまけに「どうも御苦労様でした」と馬鹿丁寧に送りだされて終りであつた。
私は戦争中は天命にまかせて何でも勝手にしろ、俺は知らんといふ主義であつたから、徴用出頭命令といふ時も勝手にするがいゝや何でも先様の仰有《おっしゃ》る通りに、といふアッサリした考へで、身体の悪い者はこつちへ、と言はれた時に丈夫さうな奴までが半分ぐらゐそつちへ行つたが、私はさういふジタバタはしなかつた。けれども、役人は私をよほど無能といふよりも他の徴用工に有害なる人物と考へた様子で、小
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