本郷の並木道
――二つの学生街――
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)無聊《ぶりよう》に
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一年半京都に住んで、本郷へ戻つてみると、街路樹の美しさが、まつさきに分つた。京都は三方緑の山にかこまれてゐるが、市街の樹木を殆ど思ひ出すことができないのである。多分、街路樹も、なかつたのだらう。
本郷へ戻つてきて、まづ友達とUSで昼食をとつた。戸口を通して、街路樹が見えるのである。それだけのことが、すでに甚だ新鮮だつた。キャフェのテラスが家庭の延長のやうなパリジャンにとつて、常にマロニエが忘れ得ぬ友達であるのは、当然だと思つた。街路樹は青春を思はせる。京都の街が死んでゐるのは、街路樹の少いせゐもあるだらう。
然し京都は、街全体がひとつの学生街である。河原町四条を中心とする京都の唯一の盛り場は、学生によつて氾濫し、占領されてゐるのである。喫茶店は言ふまでもなく、おでん屋の椅子の大部分も学生によつて占められてゐる。彼等はわが縄張りにゐるかの如く傍若無人である。わりかんで酒をのみ、忽ち酔ひ、駄洒落を飛ばし、女を口説いてゐるのであるが、うるさいこと、夥
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