ふのであつた。
美少女は結婚した。
同時に先生は散歩をやめた。丸々とふとつてゐた先生が突然痩せ衰へ、頬肉は落ち、眼はくぼみ、見る影もない老衰病者のやうになつた。
かうなることは分つてゐるのに、自分の恋がはじまると、どうして先生はお供の列に美青年を加へなければならなかつたか? 我々の知人間では一様に分らないと言ふ。
美少女と結婚したB青年の話をきくと、ほかのお供の青年に当るよりもB青年につらく当るといふこともなかつたと言ふ。悩んだのは徹頭徹尾先生一人だけであつた。
先生は不能者だといふ者もあるが、これは然し当にならぬ。暴風のごとく悩むことが先生の自らも気付かざる趣味であり、潜在性慾と潜在自虐趣味との相剋の結果、即ち潜在裡に潜在自虐趣味の方が克つこととなつたのだらうと見る人もあつた。この場合潜在性慾の敗北は性慾の力の弱きを意味せず、その潜在力の深すぎたことが敗因で、性慾そのものはむしろ強すぎたことにはならぬのかと附言して言ふ、これも当にはならぬ。
結局先生は女好きであつたか知れぬが、この年までまことの恋を知らず、この美少女が初恋で、すつかり戸惑ひしたのだらうと言ふ者もあり、如
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