母
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)併《しか》し
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当初|妾《わたし》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)フラ/\
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畏友辰夫は稀に見る秀才だつたが、発狂してとある精神病院へ入院した。辰夫は周期的に発狂する遺伝があつて、私が十六の年彼とはぢめて知つた頃も少し変な時期だつた。これ迄は自宅で療養してゐたが、この時は父が死亡して落魄の折だから三等患者として入院し、更に又公費患者に移されてゐた。家族達は辰夫の生涯を檻の中に封じる所存か、全く見舞にも来なくなつた。
辰夫は檻の中で全快したが、公費患者の退院には保護者の保証が必要であるし、それに辰夫は三等患者時代の費用が百円程借りになつてゐたので、退院することが出来なかつた。辰夫は狂人達と一緒に檻の中で封筒を粘つてゐたが、一日七銭の稼ぎになると言つてゐた。
さういふわけで他に訪れる人がなかつたので、辰夫は私一人を心待ちにして暮した。ところが私は性来最も頼りにならない男で、自分の親切さには凡そ自信を持たないか
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