一日私は広茫たる水田のほとりへ辰夫を訪れた。折悪しく辰夫は社用で不在だつたが、あの神経質な又冷淡な母親を予想してゐた私は、そこに全く思ひがけない物静かな、その温顔に神へのやうな深い感謝を私に浴せる老いたる母を見出して呆然としてゐた。私は田園の長い夜道を辿り乍ら、改めて歎息に似た自卑と共に、世に母親ほど端倪すべからざるものはないと教へられた。
底本:「坂口安吾全集 01」筑摩書房
1999(平成11)年5月20日初版第1刷発行
底本の親本:「東洋・文科 創刊号」花村奨
1932(昭和7)年6月1日発行
初出:「東洋・文科 創刊号」花村奨
1932(昭和7)年6月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※新仮名によると思われるルビの拗音、促音は、小書きしました。
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2008年4月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは
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