々は酔ひつぶれるぐらゐのことはできた。金廻りが悪くなると却つてオコノミ焼の母娘やヒロシと親密さが濃くなつたのは、有頂天時代の危さがなくなり、同じ淪落の同類項で、助けられたり助けたりといふたのもしさが生れたせゐだ。淪落の世界では助けるといふ一方的な関係から血肉的な親密は生れてこない。夏川は淪落世界の意外に温帯的な住み良さに驚いたが、一方では意外の伏兵に悲鳴をあげた。
娘はもと/\夏川の蒲団の中に寝てゐた頃から、彼をオヂサンと呼んでゐたので、さうだらう、四十男と十八の娘だ。別に夏川を嫌つてもゐないが、愛情などはもつてゐない。金に買はれただけの話で、金がなければそれまでといふ冷めたさでもないが、つまり、金がなければ、オヂサンで、貞操の念もない代りに、行きがゝりに縛られるやうな情もない。至つて自由で、見様によれば無邪気であり、憎いどころか、爽やかな明るさを感じられるぐらゐであつた。そしてその頃からオデンヤなどで働くやうになり、自分の家へ帰ることがめつたにないやうになつたが、急に大人びて、会ふたびに成熟して行く。それは植物の開花まぎはの恐るべき成熟の速度に似てゐた。夏川は外の娘の場合に未だ曾《
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