にねる時はいつも夏川の蒲団の中に寝てゐたものであつた。よくまアあんな馬鹿騒ぎができたものだと夏川は思ふが、あれぐらゐ傍若無人の馬鹿騒ぎになると、あたりが呑まれてその気になつてしまふもので、オコノミ焼の母親まで一ぱし芸者めく気持になつてオシロイもぬりかねない打ちこみ方になつたから笑はせる。因業爺までウヰスキーを頂戴したり何がしの引出物にあづかつたりして、幇間なみにへいつくばつてお世辞も云ひ、端唄《はうた》の二つ三つ無理にも唸つてみせたものだ。
元々彼の一味は会社の仲間でいづれも中年ちかい年配、敗戦と会社の解散、妻子も故郷に帰してゐるといふ年配と境遇からも謀反を起してみたい条件がそろつてゐる、自然の手蔓であぶく銭をかせいでみたが、血気な青年に比べると節度や多少の見通しが立つだけ却つてだめで、封鎖を境にもう潮時だと解散して、妻子のもとへ帰つたり、改めて腰弁生活を始めた男もあつた。
夏川だけが置きすてられたが、堕ちる肚をきめてしまへば生活に困るといふことはない。それまでの顔があるので、米でも酒でも右から左へ動かしただけで相当の金にはなるので、こまめに足を動かせば、昔のやうにはいかないが、時
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