のはその象徴だと見立てることもできるではないか。彼は次第に思いこむようになったけれども、さすがにそれだけは云わなかった。
三人の子供の墓標をひッこぬいて焼きすてたとき、彼は最後の事業を決意していたのである。その翌日から、かつてシイタケで失敗した山地の木立を手当り次第叩き切りはじめた。
誰も彼の意図を察することができなかった。できないはずだ。もともと人の考えつくことではない。蘇我入鹿が考えただけだ。久作は天皇なみのミササギをつくろうというのだ。三人の子供のためではなくて、自分のだ。ついでに子供の魂も入れるつもりではあるが、魂だから場所はいらない。それから先祖の魂も呼びこむつもりだ。断乎決定的な墓を残して地上から他の一切の跡をたつつもりであった。
古墳の小さいのは近在にもあるが、彼はよそで大きいのを見物したこともあって、石室を組み立て、その上に円形もしくは円を二ツ並べたような山をつむ必要がある。入口なぞどっちでもよいと思ってやった仕事だったが、偶然にも南面して作法に合っていたそうな。畑のヒマをみて、この仕事にかかったが、近所の山から石を運ぶたって大仕事だ。一人仕事だから入鹿なみの巨石を使うわけにいかないが、仕事はタンネンにやった。石ダタミも石の壁も三重四重に張ってセメントをつめ、天井石も落ちないように応分の工夫をこらした。石細工だけで四年もかかって、五年目から山の製造にかかったが、そのころ米ソの関係も険悪の度を加え日本の諸方に米軍基地の急造が目立つようになったので、さては水爆よけの防空濠を造っているに相違ないと部落の人々は考えた。部落の全員が、否、日本人の全部が死滅しても久作だけは生き残るコンタンに相違ない。あくまでメートル法に挑戦するのもケナゲなフルマイではあるが、二千メートルの山また山にかこまれているこの部落で小さな山を造っている久作の姿はなんともバカげたものに見えたのは確かであった。
「何メートルの山を造るだね」
とリンゴ園から見下して中平がからかったとき、久作はすでに完成している石室の中へ急いで駈けこんだ。いつまで待っても出てこないので中平がリンゴ園から降りてきてのぞいてみると、久作は坐禅を組んでいた。中平はふきだしたいのをこらえて云った。
「さすがに人間だな。タヌキやクマは穴の中でウタタネするだけだからな」
久作はジッとこらえて返答しなかった。そこで中平もあきらめたのである。
「貧乏人が辛抱するのは感心なことだ」
彼はこう呟いてリンゴ園へ戻ったのである。そんなことがあってマもなく、中平の盗難事件が起ったのである。
★
中平がクマに用いるタマをこめた二連発銃をぶらさげて戸別訪問を開始したので、部落は大恐慌となった。彼は家ごとに徹底的な家宅捜査を強要したのである。それを拒むことはできなかった。五尺八寸五分の大男であるし、昨今は目ツキも人相も変っている。一発ズドンと見舞われてはたまらないから、タタミまであげて見せないわけにいかない。
家宅捜査は保久呂湯からはじまって全戸に及んだが、一度ではすまなかった。盗品を発見するまで何百ぺんでもくりかえすと彼は宣言したのである。宣言通り実行した。中平は部落の誰かが犯人だと確信していた。都会とちがって盗んだ金をすぐ使うことができないから、大方畑か山林へ埋めているかも知れない。使うヒマがないうちに取り返すつもりなのだ。部落から里へ降りようとする者があると、中平は風のようにリンゴ園から駈け降りて、身体検査をした。クマのタマをこめた二連発を放したことがないから始末がわるい。部落会長の六太郎が総代となって彼を訪ねて、
「部落の者はお前のおかげで仕事にもさしつかえているが、家宅捜査をやめてくれないかね」
「大泥棒が現れたのは部落全体の責任だから、犯人がでるまで協力するのが当り前だ」
「しかしだね。犯人が部落の者だとは限らない。保久呂湯へ泊っていた七ツの子供までお前のシマの財布のことを知っていたぐらいだから、去年保久呂湯へ泊った客も、オトトシ保久呂湯へ泊った客もみんなシマの財布のことを知っていたに相違ない。その中の悪者が姿を見せずに忍んできて盗んだかも知れないではないか」
「それはだます言葉だ」
「なにがだます言葉だ。保久呂湯へ泊った七ツの子供がちゃんと知っていたことはお前が子供の首をしめあげたのでも歴々としているではないか」
「なおさらだます言葉だ。ところがオレはだまされないぞ。オレの目には犯人が部落の者だということが分っている」
「その証拠を見せてもらいたい」
「盗まれた金はこの部落のどこかにある。金の泣き声がきこえてくる」
「それは証拠ではない。お前は神経衰弱のようだ」
「益々だます気だな」
「とんでもないことだ。理を説いてよく聞きわけてもらいたいという考え
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