のねどこに相違ないが、蛇だってまき加減の具合や何かで悪夢を見るかも知れないからアッというまに足いや腹をすべらして墜落したら、いやこれはもう目も当てられない。この男が悟りをひらいていない証拠には、暗闇の部屋の片隅で、真剣な懊悩《おうのう》の様子といったらないのである。数日後には風にまぎれて山から姿が消えてしまった。それから涅槃大学へ現れるまで、とんと見た人がなかったのである。
 涅槃大学の印度哲学科には十三人の生徒がいた。栗栖按吉という場違い者を除いてみると、あとはみんな素性の正しい坊主であった。
 坊主の子供が大学へはいる。一番先に何をする。一番先に毛を延すのだ。必要以上にポマードをたっぷりつけて、ああ畜生めなんだって帽子などいう意味のはっきりしないものがあるのだろうと考えるのだ。と、容易ならぬ事件が起きた。突然栗栖按吉がクリクリ坊主になって登校したのである。これはもう革命を愛する精神だ。十二人の同級生は悲憤の涙を流したのだった。
 まったく、なさけなくなるのである。栗栖按吉は小学校の一年生と同じように大きな帽子をかぶっている。帽子の中には新聞紙が三日分も折りこんであるのである。按吉は
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