、小さい乍《なが》らも凡そ金鉄の決意であった。そこで食事を一食八銭にきりつめ、そのためには非常に遠い食堂へ行き、通学に四|哩《マイル》歩き、そうして貯金を始めたのである。愈々《いよいよ》予定の額になって、さて、油絵の道具を買いに行こうという瞬間に、盲腸炎になってしまった。入院し、実に貧弱な肉体ですなア、と医学博士に折紙つけられた挙句の果に、貯金をみんな、なくしたのである。
 龍海さんは意気悄沈、まったく前途をはかなんでいたが、或る日、再び元気になった。というのは、フランス帰りの放浪画家とふと知りあいになったからで、この画家の話によると、巴里まで辿りつきさえすれば、あとは一文の金がなくとも、なんとか内職で生きのびながら絵の勉強ができるという耳よりな話なのである。これは実際の経験談で、龍海さんを納得させる力があった。
 その日、ただちにその場から、忽然《こつぜん》として、すでに龍海さんは貯金の鬼であった。一食八銭の食事も日に二度にきりつめ、あるときは一食にへらし、フラフラしながら学校へ来て、水をのみ、拾った金も遠慮なく貯金した。
「今日、五十銭、拾いました。すぐ、貯金して参りました」
 龍
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