文章のカラダマ
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)此《かく》の
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一月二日発表のハワイ襲撃の指揮官○○中佐の談話は、文章を職業にする者から見て、ひとり同胞のみならず全世界の鶴首を満足せしめるに充分の文章力が具はつてをり、敬服に堪へぬものがあつた。
あの文章は、そのまゝ如何なる国語に飜訳しても通用し、恐らく各国人の待望を満足せしめるに相違ない。余分の感傷といふものがなく、崇高偉大なる事実のみが語りつくされ、文章が、たゞ事実の要求に応じて使駆されてゐるにすぎぬからだ。真の文章とは常に此《かく》の如く率直なものであり、真の文学も亦、常にこれだけに過ぎなかつた。
然るに現在日本に行はれてゐる特派員の報道や戦争文学の多くのものは決して右の如きものではない。事実はツマで、文章のみの感が多く、ダヽヽヽといふ機銃の音などの描写のみに入念で、事実を伝へるに先立つて先づ感傷を押売りにする。近親を戦線に送つてゐる同胞は多少身につまされる所もあらうが、これが全世界待望のニュースである場合には、決してその真意を伝へる手段とは成り難い。
大東亜戦争はすでに東亜
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