ふてゐたい。
ヂュリエット入る
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ロミオ
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卿《そもじ》の目には安眠が、卿《そもじ》の胸には安心の宿るやう! あゝ、其の安眠とも安心ともなつて、君の美しい胸や目に宿りたいなア!…………
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私はロミオとヂュリエットを勝手にバラバラとめくつて所きらはず抜いたのであつて、シェクスピアの戯曲は何処をめくつても、常にこれくらゐの名文は転がつてゐる。かと思へば、
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ヂュリエット
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お前もう去《いな》しますか? ああ恋人よ、殿御よ、わが夫《つま》よ、恋人よ! きつと毎日|消息《たより》して下され。これ、一時も百日なれば、一分も百日ぢや。おゝ、そんな風に勘定したら、また逢ふまでには予《わし》は老年《としより》になつてしまはう!
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といつた具合に、切々として胸を打つ別離の言葉を述べさせる。まことに、美文と言ひかつ名文と言ふべきであらう。而して、これらの名文は決して単にひねくられただけの軽薄な文章ではなく、娘心の限りもない恋慕の情を良く洞察し表はしてゐる。
と
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