んな尻切れトンボのやうな狂言を実際舞台でやれるかどうかは知りませんが、決して無邪気に笑ふことはできないでせう。
 この狂言にもモラル――或ひはモラルに相応する笑ひの意味の設定がありません。お寺詣でに来て鬼瓦を見て女房を思ひだして泣きだす、といふ、なるほど確かに滑稽で、一応笑はざるを得ませんが、同時に、いきなり、突き放されずにもゐられません。
 私は笑ひながら、どうしても可笑しくなるぢやないか、いつたい、どうすればいゝのだ……といふ気持になり、鬼瓦を見て泣くといふこの事実が、突き放されたあとの心の全てのものを攫《さら》ひとつて、平凡だの当然だのといふものを超躍した驚くべき厳しさで襲ひかゝつてくることに、いはゞ観念の眼を閉ぢるやうな気持になるのでした。逃げるにも、逃げやうがありません。それは、私達がそれに気付いたときには、どうしても組みしかれずにはゐられない性質のものであります。宿命などゝいふものよりも、もつと重たい感じのする、のつぴきならぬものであります。これも亦、やつぱり我々の「ふるさと」でせうか。
 そこで私はかう思はずにはゐられぬのです。つまり、モラルがない、とか、突き放す、といふ
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