がきくけれども男は返事のひますらもないという一挿話がなければ、この物語の値打の大半は消えるものと思われます。
つまり、ただモラルがない、ただ突き放す、ということだけで簡単にこの凄然《せいぜん》たる静かな美しさが生れるものではないでしょう。ただモラルがない、突き放すというだけならば、我々は鬼や悪玉をのさばらせて、いくつの物語でも簡単に書くことができます。そういうものではありません。
この三つの物語が私達に伝えてくれる宝石の冷めたさのようなものは、なにか、絶対の孤独――生存それ自体が孕《はら》んでいる絶対の孤独、そのようなものではないでしょうか。
この三つの物語には、どうにも、救いようがなく、慰めようがありません。鬼瓦を見て泣いている大名に、あなたの奥さんばかりじゃないのだからと言って慰めても石を空中に浮かそうとしているように空《むな》しい努力にすぎないでしょうし、又、皆さんの奥さんが美人であるにしても、そのためにこの狂言が理解できないという性質のものでもありません。
それならば、生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。私
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