文学のふるさと
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)「赤頭巾《あかずきん》」

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)寺|詣《もう》でを致します
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 シャルル・ペロオの童話に「赤頭巾《あかずきん》」という名高い話があります。既に御存じとは思いますが、荒筋を申上げますと、赤い頭巾をかぶっているので赤頭巾と呼ばれていた可愛《かわい》い少女が、いつものように森のお婆《ばあ》さんを訪ねて行くと、狼《おおかみ》がお婆さんに化けていて、赤頭巾をムシャムシャ食べてしまった、という話であります。まったく、ただ、それだけの話であります。
 童話というものには大概教訓、モラル、というものが有るものですが、この童話には、それが全く欠けております。それで、その意味から、アモラルであるということで、仏蘭西《フランス》では甚だ有名な童話であり、そういう引例の場合に、屡々《しばしば》引合いに出されるので知られております。
 童話のみではありません。小説全体として見ても、いったい、モラルのない小説というのがあるでしょうか。小説家の立場としても、なにか、モラル、そ
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