の中間にはさむ息ぬきの茶番のようなもので、観衆をワッと笑わせ気分を新らたにさせればそれでいいような役割のものではありますが、この狂言を見てワッと笑ってすませるか、どうか。尤《もっと》も、こんな尻切《しりき》れトンボのような狂言を実際舞台でやれるかどうかは知りませんが、決して無邪気に笑うことはできないでしょう。
この狂言にもモラル――或《ある》いはモラルに相応する笑いの意味の設定がありません。お寺詣でに来て鬼瓦を見て女房を思いだして泣きだす、という、なるほど確かに滑稽《こっけい》で、一応笑わざるを得ませんが、同時に、いきなり、突き放されずにもいられません。
私は笑いながら、どうしても可笑《おか》しくなるじゃないか、いったい、どうすればいいのだ……という気持になり、鬼瓦を見て泣くというこの事実が、突き放されたあとの心の全《すべ》てのものを攫《さら》いとって、平凡だの当然だのというものを超躍した驚くべき厳しさで襲いかかってくることに、いわば観念の眼を閉じるような気持になるのでした。逃げるにも、逃げようがありません。それは、私達がそれに気付いたときには、どうしても組みしかれずにいられない性
前へ
次へ
全12ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング