文学と国民生活
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)磔《はりつけ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)日本|切支丹《キリシタン》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\
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パヂェスの「日本|切支丹《キリシタン》宗門史」だとか「鮮血遺書」のやうなものを読んでゐると、切支丹の夥しい殉教に感動せざるを得ないけれども、又、他面に、何か濁つたものを感じ、反撥を覚えずにゐられなくなるのである。
当時は切支丹の殉教の心得に関する印刷物があつたさうで、切支丹達はそれを熟読して死に方を勉強してゐた。潜入の神父とか指導者達はまるで信徒の殉教を煽動してゐるやうな異常なヒステリイにおちてをり、それが第一に濁つたものを感じさせる。
切支丹は抵抗してはいけない掟であるから、捕吏に取囲まれたとき、わざ/\大小を鞘ぐるみ抜きとつて遠方へ投げすてゝ捕縄されたなどゝいふ御念の入つた武士があり、かういふものを読むと、その愚直さにいたましい思ひをよせられ、やりきれない思ひになる。
然し、彼等の堂々たる死に方には実
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