際感動すべきものがあるのであつて、始めのころは斬首や磔《はりつけ》であつたが、その立派な死に方に感動して首斬りの役人まで却つて切支丹になる者がある始末、そこで火炙りを用ひるやうになり、それも直接火をかけず、一間ぐらゐ離れた所から灸るやうにし、縄目をわざと弛めておいた。といふのは、彼等が見苦しく逃げ廻つたりすることの出来る余地を与へるわけで、見物にまぎれて刑場をとりまいてゐる信徒達に彼等の敬愛する先輩達の見苦しく取りみだした様をみせつけて改宗をうながすよすがにするためであつた。この火炙りにかゝると一時間から三四時間生きてゐるのが普通であつたが、見苦しく取りみだして逃げ廻つたりするのは極めて稀れで、大概は身動きもせず唯一念に祈念の声を放ちつゞけて堂々と死に、その荘厳さに見物人から多数の切支丹になる者が絶えなかつた。結局二十年目に穴つるしといふ刑を発明したが、手足を縛して穴の中へ逆さに吊すのださうで、これにかゝると必ず異様滑稽なもがき方をするのがきまりで、一週ぐらゐ生きてゐるから、見物人もウンザリして引上げてしまふ。苦心二十年やうやく切支丹の死の荘厳を封じることが出来、その頃から切支丹がめつ
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