一度ひとり静かに頷いて結論をつけ加えた。
「どういうワケなんですか?」
「ハ? いま申上げましたようなワケです。まことに、どうも、悲痛きわまる次第なんです」
「なんだか、ゾクゾク寒気がするわね」
「そうなんです。この夕頃の時刻は、土中の農作物が一時に空気を吸いこみますために、にわかに冷えます」
「私はまたアナタのせいかと思ったわ」
「感謝します。ありがとう」
「どういう意味?」
「ボクのいつわらぬ心境です」
「変った村ねえ。まるで外国にいるような気持になったわ」
「いいですね。夢をみて下さい。異国の夢。青春の一夜です」
「ワー。助からない」
「小森ヤツ子さん!」
「へんな声をださないで。私もう帰るわよ。でも、覚えてらッしゃい。二等の運賃は忘れないから」
「モシ、モシ」
「たくさんだッたら!」
「念のために申上げたいのですが、最終のバスはとっくにでました。次のバスは明朝まででませんが」
「私の連れの方は?」
「ボクは存じません」
「お連れの方はボクが最終のバスに御案内いたしまして、無事おのせいたしましたんで」
「私にはバスの時間も知らせなかったのね」
ヤツ子の怒りはここに至ってバクハツ
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