穂に幾粒つくか責任がもてません。その芋だのネギだの人参が百姓の親友なんですから、彼らは芋同然、あるいは芋虫の同類に当るわけです。先天的に無責任です。芋が文化祭をやったのが、そもそも失敗でありまして、ひいては大学生の皆様にまで御迷惑をおかけするようになったわけですが、かえりみれば本日の聴衆も芋でした。損害賠償ということは敗戦国の重大な課題でありますが、都会にバクダンが落ちますと損害を生じるに反しまして、農村にバクダンが落ちますと、ただ穴ができます。これを平にならしますと元にもどってバクダンの破片がプラスになって永久に残ります。即ち農村は戦争も損害賠償を生じる心配がなく、人類の住む場所ではありません。ここには民主主義もあってはいけないのです。雨が降る。太陽がてる。芋が育つ。それだけです。ボクは戦争反対ですが、農村が戦争反対でないのはそういうワケでして、これを同胞とたのむ我々の不幸がそこにあるワケです。思えば、実に、そういう次第です」
 信二は黯然と目を閉じて瞑想する。政界の大物の答弁よりもワケがわからない。しかし彼は語ることに激しく感動しているらしく、
「ま、そういうワケです」
 と、もう
前へ 次へ
全30ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング