とにかく、どうにもなりません」
「何がどうにもならないのですか。自殺はできるはずよ」
「そういうはずですね。それは改めて研究しますが、二等運賃の方はどうにもならないようなんです」
「遁辞は許しません。あれだけの熱心な聴衆があったのですから、責任はアナタ方にあります。責任をとって下さい。自殺してみせて下さい。見物します」
「こまったな。みんなに相談いたしまして」
「アナタは幹事長でしょう」
「ハア。しかし、当村におきましては幹事長は小学校の級長と同列にありまして、一文のサラリーがあるわけでもなく、したがって責任も負わない規約になっておりまして」
「卑劣です。私はアナタを訴えます。その弁解は法廷でなさい」
 法廷という言葉に五助は脳天から足の爪先まで感電してすくみあがってしまった。顔色を失って、一分、二分、三分。一寸一分、一寸二分、一寸三分とうなだれる。重役の風格どこへやら、全然ダラシがない。
 信二は五助の代りにタバコに火をつけて、三四服、静かにくゆらした。
「どうも、無責任な話ですね。これが、農村なんですね。万事に責任がもてないのです。土の中に芋がいくつついたか責任がもてませんし、麦が
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