いるが、キミひとつ幹事長の悪役をやってもらいたい」
「おやすいことです。しかし、女性一人ぐらい二等で帰してもいいじゃありませんか」
「いけませんね。彼女は所持金もあるようだから、帰りの三等運賃も差上げなくともよろしいかも知れませんね」
「そこまではボクにはやれそうもありませんが」
「イエ、そのときはボクがやります。では、ひとつ、幹事長」
「ハイ、ハイ。かしこまりました」
 信二は五助をつれてきてヤツ子に紹介した。五助は大きな会社の重役かのように悠々と煙草をくゆらしながら、
「二等というお話の由ですが、差上げたいのは山々なんですけれども、予算がありましてね。その予算がまた見事に狂いまして、本日の入場者千何百人のうちお金をだして切符を買って正式に入場したのが三十名ぐらいでしょう。三十円が三十枚で、たった九百円か。ウーム。これはまた少なすぎたな。どうにもならねえなア、九百円じゃア」
「それは会場整理の立場にあるアナタ方の責任ですわ」
「それはもう、たしかに我々の責任ですとも。ですから、いっそ自殺しようか、なんてことを云う者もあるし、死ぬにはまだ惜しい命だなんて声もあるし、テンヤワンヤですね。
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